対立するふたつのギャング団による、札束と麻薬の詰まったトランクの奪い合い――そんなありふれたプロットの表面下に、錯綜した水脈が走っているかのようだ。傍若無人な殺し屋たちの隠し持った欲望が、悪夢のような混乱を招く物語は、大和屋竺(日野洸の変名でクレジットされる)の代表作の一つだといってもいい神話的強度を誇っている。大和屋自身が演じる唖の殺し屋クロは、自分をリンチにかけた一味への復讐のために奪ったトランクを、少女マリが持ち去ったのだと信じてしまう。そんなマリへの恋情に彼が取り憑かれはじめたのは、彼女が自分の舌を切った宿敵の情婦だと知ったときにちがいない。女が残した弦のないギターを掻き鳴らす彼の愛と憎しみ――しかし、クロだけではない。この物語のすべての男女は、手の届かない存在を憎んで愛するアンビヴァレンスに支配されているのだ。やがて宿敵への復讐を遂げ、マリへの疑いが晴れてしまうと、クロは暗闇のなかでいつまでもギターを奏でるしかない。きっとそれは、憎しみに取り憑かれた自分が、憎むことによってしか愛せないことを悟った絶望からだろう。
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